死刑廃止論について


		 死刑廃止論の論拠は人道主義的見地、犯罪抑止効果への疑問、誤判救済が不可能な
		ど様々である。どの論拠にも一理ある、と思ってしまう。しかし、これらの論拠で本
		当に死刑廃止の必要があると言えるのか?論拠の一つ、人道主義的見地を取り出して
		考えてみる。

		 人道主義的見地――すなわち、国が人を殺すことを認めることについての道義的問
		題――は一理あると思える。何故ならば、人が人を殺すことは悪である、というのが
		常識だからだ。しかし、よく考えると一つ疑問がある。懲役で獄中死に至るのは問題
		になっていない、という点である。無期懲役は緩慢な死刑、と考えることもできるた
		め、死刑のみを特別に議論する必要があるのか、ということになる。だからといって、
		無期懲役と死刑の二つを廃止すれば、再犯による犯罪の件数が増加することはほぼ
		間違いないと私は思う。

		 しかし、こういう理由があっても、「だからといって、国が人に人を直接殺させる
		のは問題だ」と切り返される。これでは堂々巡りだが、ここで一つ気付くことがある。
		廃止論は「国が人を殺すことを認めるのは悪」、よって死刑廃止となる。しかし、
		死刑存置論ではそれを論理の飛躍として、「国が人を殺すことを認めるのは悪」だっ
		たとしても、それは死刑廃止を導く理由にはならない、とする。そこで廃止論では「人
		を殺すことを認めていいのか」と話を元に戻す。すなわち、人道主義的見地から議
		論を行うと、死刑=悪という意見と、死刑=必要悪という意見の対立になるのではな
		いか、と私は考える。

		 では、この論拠で本当に死刑廃止の必要があると言えるのか?私の考えでは否、で
		ある。懲役の問題を無視してしまうからだ。死刑廃止は死刑だけの問題ではなく、そ
		の他の刑罰や国のあり方にも関わってくる問題だ。この点を考えると、人道主義的見
		地からだけでは死刑廃止の必要性は認められないと思う。

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